傍から見た『大人の女の事情』

 幸薄い女がいるとするなら、今俺の隣にいるこの女がそれに当たると思う。
 名前は幸恵。「幸に恵まれる」と書いて『さちえ』。「名前負けしてないか?」という言葉は彼女と俺のこれからの友情を継続するために言わないでおいた。
 コイツとこうしてクリスマスを過ごすのも今年で2回目になる。あぁ、俺? 俺は別にモテないわけじゃない。ただ偶然クリスマス前になると女がいないってだけだ。
 まあ、俺の事なんてどうでもいい。今年も俺の隣で何杯目かわからないジントニックを飲み干している幸恵の話しに戻ろう。
 
 幸恵は彼女持ちの男と付き合って3年目に突入しようとしている。男は「クリスマスは彼女とも会わないし、お前とも会わない。これが二人を同時に好きになった俺が出来る責任」なんてわけわからねー事言ってるらしいけど、幸恵はそれをとりあえず納得して受け入れている。決して美人とはいえないが、他の男からアプローチも受けないほどモテないというわけでもない。実際つい先日も、俺達共通のヤロー友達に告白されていたのを知っている。「ソイツと付き合えば?」と言っても「面倒」と笑って(もちろんソイツには言わないが)幸恵は断りをいれていた。

 狭いのに無理して置いたツリーのせいで、いつもより窮屈に感じる店内を幸恵は気にいってるらしい。彼女曰く「隙間は少ないほうがいい」だそうだ。「お前やっぱり寂しいんじゃねーの?」ズブロッカと一緒に飲み込んだ。

 去年のクリスマスだったか、暇つぶしと興味本位で男の写真を見せてもらった。どちらかというと目つきは鋭く、髪はちょっと長めで神経質そうだ。「どんな男?」と訊いたら「う~ん。女大好き人間。飲みに行って口説いてお持ち帰りとか普通にできちゃうような人。『愛してるよ』って言ってくれてもどこか信用できないというか。誰にでも言ってるでしょ? って思っちゃうの。それに酔って電話してきて受話器から『うっ! おぇ~!』って嘔吐しているところを聞かせてくれちゃう人」って答えてた。
 大抵の女って男のこういう部分見たら引いたりするんじゃないのか。まあ、ヤローの方はすげー自然体で幸恵と付き合っているのだけはわかった。

 クリスマスソングが静かに流れる。幸恵は微笑しながらマスターと話をしている。しかもなんだか楽しそうだ。もしかするとコイツは一人でもイブをすんなり過ごせるのかもしれない。ふと気になって『男のどこが好きなのか』を訊いてみた。

「う~ん……。」
『う~ん』と少し小首を傾げて話し始めるのは幸恵の癖だ。
「緑で、もこもこしていて丸いけど、でも丸だけじゃないの……と言って何の事を指しているかわかる?」
「……。わっかんねー」
「でしょー? でも彼はわかっちゃうの。私のこの言葉だけで私が何を言おうとしているのか理解してくれる。で、迷子になっている私をいつも答えに導いてくれるの。怒ったり馬鹿にしたりしながら」
 幸恵はそう言って笑い、ジンバックを飲み始めた。
「でもさ、クリスマスなのに会えなくて、プレゼントも貰えないんだろ? そういうのって寂しくないの?」
 そう訊くと幸恵は携帯の時計を確認してから「そうね。たぶん……後30分後にはプレゼントが届くよ」と言った。

「ねぇ……」
 キャンドルを見ながら頬を赤く染めた幸恵が言う。
「幸せの形があったとして。それは傍から見てもわかるような形じゃないといけないなんて事はありえないでしょ。人それぞれ幸せの感じ方は違う。どんなに愛してもらっても私を理解してくれる人じゃなければ私は幸せじゃない」
 そう言い終わるか終わらないかのうちに幸恵の携帯がなった。

 くしゃっと笑った幸恵の目からはハートが出ていた。いや、本当にハートが見えたわけじゃないが、見ているこっちが恥ずかしくなるような表情をしている。こんな顔をした幸恵を俺は初めて見るけれど、たぶんこの顔を、写真の男はいつも見ているんだろうと思った。
 「ほら。プレゼントが届いた」
 彼女はスッと携帯を俺に見せた。
「約束してたの? この時間にメールいれるよ。とか」
「ううん」
「じゃぁ、なんでわかるんだ?」
「私と彼にしかわからない形があるのよ」
 
 メールには【あー。えーと。メリークリスマス】と入っていた。
 それはちょうど30分後だった。

2009年12月24日23:34 [創作]